2010年11月アーカイブ

21回 理想の結婚相手は「エコノミー男子」?

 中国の流行語に、「経済適用男」(エコノミー男子)という単語がある。ウェブ百科事典の『百度百科』によれば、これは「身長とルックスは月並み。性格は温和で給料はしっかり家に入れる。月給2000~1万元で家賃を払える経済力がある。お酒・タバコ・ギャンブル・女遊びをしない」男性を指すとのこと。いわば可もなく不可もない無難な男性だが、中国の一部の女性の間では「嫁に行くならエコノミー男子」と人気が急上昇中である。

 普通、中国の男性と言うと日本以上に「肉食系」のイメージが強い。お酒・タバコ・ギャンブルは当たり前、お金や権力にギラギラしているかわりに奥さんには豊かな生活を保障する――というのが、中国で成功している「勝ち組」男性のイメージだ。かつては女性の側も、多少はヤンチャでもこのような男性と結婚したがる風潮が強かった。

だが、中国社会が豊かになり都市部を中心に庶民の生活が底上げされたことで、従来にはなかった安定志向も芽生えつつある。ひとまず安定した家庭生活を実現できそうな「エコノミー男子」のブームは、そんな社会背景に基づくものだとも言えるだろう。

中国の質問サイト『百度知道』に寄せられた、エコノミー男子の夫を持つ女性の投稿を紹介してみよう。『百度知道』には普段は恋愛や夫婦生活の悩みが投稿される場合が多いが、今回の書き込みは単なるおのろけである。

【夫がエコノミー男子です】 http://zhidao.baidu.com/question/116489675.html


 投稿者によると、彼女の夫はIT業界のサラリーマン。背は高くなく、ルックスも醤油顔、奥さんに甘い言葉を言うこともない。ただし、6年半の結婚生活は非常に平和で、日々の小さな出来事に幸せを感じてしまう毎日であるという。彼女と夫はネットで知り合い、恋愛の後に結婚したが、結婚生活には何の不自由もないそうだ。


「夫は何の趣味もない人でして、何をする時にも私と一緒です。
他人から見ればつまらない人かもしれませんが、私にとっては最高の夫。
結婚生活は幸せです」


 エコノミー男子を夫に持つ生活は、あまりに平凡な、しかし幸せな毎日であるようだ。こちらに寄せられた他のネットユーザーの書き込みも、投稿者を羨ましがるものが大部分を占めている。


「いいね。エコノミー男子と結婚してよかったじゃないか」(♂)

「まったく羨ましいもんだ。こういう家庭が一番だね」(♂)

「あ、私の夫もこういう人だわ」(23歳♀)

「本当にうらやましい!お幸せに!!」(♀)

 現在発売中のドラマ『中国式離婚』は、平々凡々とした夫に不満を抱く妻の物語だ。しかし、「60後」(1960年代生まれ)世代の妻の目には「不満」と思われるような夫の特徴も、現在の若い中国人の間ではそう悪くないものとしてとらえられているらしい。

 社会の変化に従って、「ダメな夫」の基準も変わっていくということだろうか。

20回 「フェニックス男」と結婚はできますか?

 中国のネット上で使われるスラングに「鳳凰男」(フェニックス男)という表現がある。これは、農村部などの貧しい地域の家庭の出身ながらも苦学の末に大学に合格し、都市部で働くことに成功した男性を指す言葉である。

 ちなみに中国において、都市部と農村部は人々の意識の上でも行政上でも明確に区分されている。中華人民共和国が建国されて10年後の1958年、農村部から都市部への人口移動を防止する目的で「農村戸籍」と「非農村戸籍」が作られ、農民の自由な国内移動を禁止しようとしたことが、この区分が生まれたそもそもの理由だ。当時の中国は生産力が乏しく都市の規模も脆弱だったため、より貧しい農村部に住む人々が無秩序に都市部に流入することは国家の基盤を崩壊させる危険があった。

 だが、貧しい社会主義時代につくられた戸籍制度は、現在もなお中国の農民を縛り付けている。「農村戸籍」を持つ農民は、大学合格や軍隊での成功といったチャンスを得ない限り、いまだに都市部への自由な転居が認められていない(そのため、都市部への違法の出稼ぎが増加することとなる)。正規の手段を通じて農村部から都市部への移住を果たした「鳳凰男」たちは、非常にデキる男たちだと言えるのである。

 しかしながら、農村部の出身者は、生活上のマナーや価値観の点で都市部の住民とは大きな差異がある(と、都市に住む中国人たちは一方的に考えている)。「鳳凰男」が苦労の末に都市へ移住しても、結婚や恋愛の相手としては一歩引いて見られるという、あまり良くない傾向もあるようである。中国の質問サイト『百度貼吧』より、そんな現地事情が垣間見える質問を紹介しよう。

【「鳳凰男」って、結婚対象としてOKだと思いますか?】 http://zhidao.baidu.com/question/175587764.html


 質問者は男性。年齢や出身地などのプロフィールは公開されていないが、ことによると彼自身が「鳳凰男」なのかもしれない。この質問に対する回答を見てみることにしよう。


「『鳳凰男』だって成功のパターンのひとつ。
確かに、あまりよくない噂は聞くけれど」(23歳♂)

「私のことを好きでいてくれる人ならそれでいいと思うよ」(♀)

「恋愛や結婚の対象としてはムリね。
人生観も世界観もライフスタイルも違い過ぎるもの。
ただの知り合いならいいんだけど...」(♀)

日本人の感覚からすると理解しがたいが、都市部の中国人にとって「鳳凰男」への抵抗感は思いのほか強いようなのだ。努力の末に都市に居住した有能な人たちに対してすら、厳しい視線が向けられるのである。

反日デモの報道などを通じて中国を見ると、彼らはとにかく愛国主義を掲げて一致団結しているという印象を受けがちだ。しかし、実際は中国国内においても、恋愛や結婚の障害になるほどの深刻な「待遇の差」が存在する。深刻な問題だが、これもまた中国社会の現実だと言えるだろう。

「腐女子」という言葉をご存知だろうか。これは「やおい」やBL(ボーイズラブ)と呼ばれる、男性キャラクターの同性愛を扱ったマンガや小説を好む女性のこと。日本では1970年代ごろからこの文化が生まれ、ここ10年ほどで一気に市民権(?)を得るようになった。世界各国を主に美形の男性に擬人化したマンガ『ヘタリア』のヒットも、こうした腐女子文化の流行が背景にあってのことだろう。

 そして、日本製のアニメやマンガの流行に伴って、実は腐女子文化は中国でも花開いている。中国語で腐女子は「腐女」。更に「攻めと受け」は「攻受」、「お兄さん萌え」は「御兄控」など、いわゆるBL専門用語は現代中国語の語彙にすらなりつつある。正直なところ、男性の立場としては流行の理由がさっぱり理解できないのだが、日本の腐女子文化には中国のオタク女子をも引き付けるだけの魅力があるようだ。

 だが、いくらBL作品を愛好しているとはいえ、腐女子は現実社会においては(おそらく大部分は)ノーマルな女性である。事実、日本の腐女子の中には普通の彼氏や配偶者がいる人が少なくない。

中国においても、これは同様であるようだ。現地のネット質問サイト『百度知道』より投稿を紹介してみよう。

【私は腐女子。やっぱりオタクの彼と付き合った方がいいんでしょうか...】 http://zhidao.baidu.com/question/44832702.html


 質問者は17歳の女性。書き込みにはネットスラングが大量に使われているため文意の把握が困難だが「超がつくほどの腐女子」である彼女は、「前の彼氏には自分の趣味がバレて振られちゃったんですぅっ!!」という悲しい過去を持つらしい。そこで、こういった相談を書き込んでいるのである。


「だからオタクの彼が欲しいんです☆
 でも、彼がデート中に萌えグッズを見つけて、
ワタシを放っておいてそっちに行っちゃったらキツいですよね~。どうしましょ」


原文が中国語だとはいえ、文体も質問内容も、いかにも痛々しい感じがする相談だ。こちらに寄せられた他の中国人の反応を読んでみよう。


「オマエの書き込みの意味が分からん。ちゃんとした中国語で書け」(♂)

「日本のマンガを読み過ぎてまともな中国語の書き方を忘れちまったのかい?」(29歳♂)

「彼氏云々、の前に人との付き合い方を考えるべき」

「考え過ぎじゃないの?」(河南省22歳 ♀

 腐女子であっても、やはり一般の質問サイトに書き込むときはしっかりした文法で文章を書かないとバカにされる、ということか。質問者の尋ね方があまりにも悪かったためか、回答する人たちも意地悪である。

ちなみに質問内容については、「腐女子とオタクって、合ってるようで意外と相性が悪いと思うよ」という男性からの書き込みが1件寄せられていた。「割れ鍋に閉じ蓋」という諺は、腐女子とオタクのカップルには当てはまらないのかもしれない。

筆者紹介:安田峰俊(迷路人)

1982年滋賀県生まれ。広島大学大学院文学研究科修士課程修了(中国史)。中国の大規模掲示板を日本語に翻訳するブログ『大陸浪人のススメ』管理人。近著に『中国人の本音』(講談社)。ほか、2010年6月4日発売の講談社のノンフィクション誌『G2』VOL.4にて「中国『禁断のメディア』紀行」を発表。日本人の先入観に捕らわれない中国の姿を追う。メールはmeirojin@gmail.com。

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