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中国ドラマあるある「落水すると嫁に行けなくなる?!」を考える《後編》|中国時代劇トリビア #109

ドラマの中に登場する気になる“アレ!”を探っていくこのコラム。今回は、前回に引き続き、ドラマによく登場する“水落ちシーン”の場面から、「人前でもOKな服装は、どのくらいまで⁉」について、探っていきたいと思います!

\前編はこちら/

前回のトリビアで取り上げた、“水落ちシーン”で「お嫁に行けなくなる」、または「名誉が地に落ちる」のはなぜ?という問題。それは、「人前で男性に直接触れてしまうから」と同時に、「水に濡れて裸同然の姿をさらすからではないか」……という考え方をご紹介しました。今回は、この時代で考えられる“人前では恥ずかしいと認識される服装”はどんなものか?を考察していきたいと思います。

古代中国の衣服の基本形は?

まず古代中国の衣服の基本形を確認してみましょう。時代によって変化が当然ありますが、ざっくりと説明すると3~5層に衣を重ね、家庭の経済状況や位の高さ、季節によっても重ねる枚数は変わります。一般的に高貴な人は衣の重ねも多く、貧しい家庭は少なくなります。

 「賢后 衛子夫」場面写真
「賢后 衛子夫」© Huace Media International Limited

服で身を包み、夫への忠誠を保っていた

古代中国では、女性は封建的な考えを持っており、社会的にも女性に対してより厳しい見方をしていました。古代の女性にとって最も重要なことは貞操であり、前回のトリビアでもご紹介したように、結婚していない女性は同年代(またはそれ以上も含む)の男性と出会うことはありません。

こうした考え方から、女性は結婚すると長いスカートで足を隠すなど、体をしっかりと覆うようになります。古代の封建思想において女性は身を包む必要があり、そうすることでのみ夫への忠誠を保つことができると考えられました。

しかし、唐の時代になると女性の服装が変わり、異国文化の影響が強くなる唐の時代の服装は、露出度の高いものが多くなるなど、時代による変化もおきてきます。

「大唐女法医」場面写真
「大唐女法医~Love&Truth~」© Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd. & Shanghai Xingge Culture & Media Co., Ltd.

丈の長い服=ステータスの象徴?!

また時代によって、女性だけでなく高位の官吏や貴族の男性も、比較的丈の長い服や、より華やかな服などを着用します。

これは比較的丈の長い服は見栄えが良いだけでなく、高官や貴族は農作業をする必要がないので、彼らのステータスを表しているとも言われています。服が長いほど自分のアイデンティティや地位、つまり富の象徴を表すことができると信じていたため、貴族はそのような長い服を着た、という考え方もあるようです。

これに対して、農民などが着ている服は体を覆うだけで十分で、足元は動きやすく、よりシンプルになります。こうすることで作業も楽になり、服装に邪魔されることもなくなるからです。


男女ともに、ボディーラインの強調はNG!

西洋人から見た16世紀~18世紀の中国女性と社会背景についての記述を調べてみると、「女性が体の線を見せるということは中国では“しない”こととされていた」とあり、それは「女性に限らず、男性もボディーラインを見せないよう」にしており、「透き通った服地、体にあった服は品位を損なうものとされ、官憲が公衆の面前での着用も禁止していた」ともあるそう。

つまり、体の線を隠し性的な魅力を強調しないことは男女共に上品である、ということに繋がっていきます。ですから、たとえ何枚着こんでいても、体のラインが出ていたら恥ずかしい姿とみなされる可能性も。今回のテーマのように、水に濡れて衣服がぴったり体に張りついた…なんていう場合は、当然ながら大問題!になってしまうわけですね。

「花と将軍」場面写真1
「花と将軍~Oh My General~」©上海興格文化傳媒有限公司 ©Shanghai Xingge Culture&Media Co., Ltd

見られて恥ずかしいのは、裸よりも…足?!

そしてこの時代、西洋人を大いに驚かせたのは、なんといっても中国女性たちの習慣となっていた「纏足(てんそく)」。女性の足を小さく変形させた纏足に、フェティシズム的な嗜好が寄せられていたことは、ご存じの方も多いかと思います。

実はこの「纏足」をした足は、決して他人に見せてはいけないことになっており、「貞淑な女性は、足を洗う時以外に決して纏脚布(纏足部分に巻き付けている布)を解かず、死んでも足を包んだまま棺桶に入る。そして、足を洗うことは必ず密かに行い、人に見られてはならない」と、されていたことからもわかるように、裸を見られるよりも恥ずかしく道徳的に許されない行為とされていました。

ドラマの中で、足または靴下(睡靴)姿を見られて恥ずかしがるという場面も、もしかするとこうした習慣と関係するのかもしれませんね!

「両世歓」場面写真
「両世歓~ふたつの魂、一途な想い~」より
原沁河(チェン・ユーチー扮)が素足で洗い物をするのを見た景辞(アラン・ユー扮)は、部下に彼女の足を見られないよう急いで隠そうとする
©BEIJING IQIYI SCIENCE & TECHNOLOGY CO., LTD.

【参考文献】
矢沢利彦著.『西洋人の見た十六~十八世紀の中国女性』.東方書店.

Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。

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