普段私たちが見ている韓国ドラマ。韓国で制作されたドラマがどういう道のりを経て、日本でテレビ放送されたりDVDになったりするかご存知ですか?
この連載は、韓国ドラマを日本のお茶の間に届ける過程に携わる人たちにインタビューをしていく【韓流お仕事図鑑】です。

連載第5回目は、言葉で作品を伝えるお仕事"ライター"に迫ります。
「師任堂(サイムダン)、色の日記」をはじめ、多くの作品に携わるライターの青島昌子さんのインタビューをお届けいたします。

<プロフィール>
青島昌子(ライター、韓国語翻訳家) 
1990年代に韓国に留学。帰国後は翻訳、通訳として活動。韓流ブームとともに執筆活動に入る。翻訳書「スノーキャットのひとりあそび」(二見書房)共訳「韓国の歴史を知るための66章」(明石書店)「美男<イケメン>ですね フィルムブック」(キネマ旬報社)など。得意分野の本格時代劇を中心に、DVDオフィシャルライターとして「龍の涙」「ケベク」「チャン・オクチョン」「お願い、ママ」など、多数の作品に参加。


第1回 「3割の新ネタ」:2017.10.5更新
第2回 「"イケメン俳優"ソン・スンホン」 :2017.10.6更新
第3回 「恋愛要素は照れる」 :2017.10.10更新

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― ここからは青島さんがオフィシャルライティングで担当された「師任堂(サイムダン)、色の日記」(以下、「師任堂~」)についてお伺いできればと思います。
「師任堂~」では、商品のブックレットや公式サイト、プレスシートなど色々な文章を書いていただきましたが、ライティングで意識された点はありますか?

最初の段階では、実在のサイムダンという人に対して先入観がありました。ただ単に "良妻賢母"というイメージのみ。この認識は、韓国の方が持っている認識とあまり変わらないと思います。

イ・ヨンエさんが復帰作として選んだこの女性をどのように演じるのか、と興味はありましたが、ここまで素晴らしい作品だとは想像していませんでした。


― イ・ヨンエさんのインタビューを読んでいると、サイムダンの新たなイメージを作りたいという思いが強かったようです。

そういう意味ではとても成功していると思います。
そこに挑戦したのはすごく素晴らしいことですし、イ・ヨンエさんは自分の考えをしっかり持っている人なんだな、と感じました。

― ライティングをされている中で、新しい発見はありましたか?

たくさんありました。
ドラマの中でも絵を描いていますけど、調べている中で「本当に絵を描いていたんだな」とわかることが多くあり。
"良妻賢母"というイメージがなかったとしたら、サイムダンは女流画家としてもっと認識されたていたはずだろう、と思いました。


― 韓国では、サイムダンは画家としてはそこまで認識されていないんですか?

サイムダンは学校の教科書にも載っているんですが、紹介の仕方は、「親の背中を見て子供は育つ」というような教育をしてきた人、というぐらいのもの。芸術家として「こういう絵を描いたから素晴らしいんだ」というような取り上げ方ではなかったと思います。

とにかく彼女の功績は、あくまで息子の李珥(イ・イ)(※1)を育て上げたということ。
「絵は趣味で描いていたんでしょ」ぐらいの捉え方であって、彼女がここまで伝えられてきているのは、あくまでもあの優秀な息子を育て上げたからなんだと思います。

※1「李珥(イ・イ)」
のちに「東方の聖人」と称される儒学者に成長。現在の5,000ウォン札の肖像画にも採用されている。

― なんだかもったいないですね...。そういう部分でもこの作品が作られた意味は大きかったんですね。

現代のジユン(イ・ヨンエ扮 ※一人二役)もそうなのですが、"女性の生き方"というテーマが全面に出ているので、現代の女性の悩みと朝鮮時代の女性の悩みが同じようなものだった、ということなど、上手く描いているな、と思いました。


― 私はサイムダン自体を知らなかったので、純粋なラブストーリーとして楽しめたのですが、サイムダンの現在のイメージや知識を持って改めて見ると、女性の人生が深く描かれた物語なんだということがわかって、この作品の奥深さを感じました。
「師任堂~」のライティングを担当されるにあたり意識されたポイントはありましたか?

実は、私はどうしても"良妻賢母"のイメージが頭の根底にあるので、ラブストーリーとして見られなかったんです。韓国の方は皆そういう先入観を持っていると思います。その殻を破っていくことが私には難しかったです。ラブストーリーの方に頭がシフトしないんですよね。

あと、夫が不倫するじゃないですか。良妻賢母をこんな風に描いていいのかな、と思ったんですが...
あれも本当の話なんですよね。

― え、本当にダメ夫だったんですか!?

記録として残っていて、今回私が翻訳した本(※2)にも載っています。

ずっと不倫をしていて、しかも師任堂もそれを知っていて。
彼女は40代で亡くなっているんですけど、自分が死ぬ前に夫に「私が死んでも再婚しないでね」って頼んでいるんです。

それなのに師任堂が亡くなった後、夫はすぐに再婚しちゃうんですけど。(笑)


※2「翻訳した本」 
キネマ旬報社より今年8月3日に発売された「師任堂のすべて 朝鮮時代に輝いた女性芸術家」で、青島さんは翻訳を担当している。

― 最低!(笑)
でも、師任堂の「私が死んでも再婚しないでね」って言う師任堂の意思の強さもすごいですよね。

そうなんですよ!
何も言えなかった朝鮮時代の女性にしては強いですよね。言いたいことを言ってきたんだな、というかんじがします。

― そんなダメ夫から、あんな優秀な子供たちが育つなんて...。師任堂の育て方が良かったんでしょうね。

史実でも、結局夫は科挙にも受かっていないんです。ドラマにも出てきますが、親戚に偉い人がいて、コネで入る。
いま「オクニョ 運命の女(ひと)」というドラマが放送しているんですけど、ユン・ウォニョンっていう悪役がいまして。あの一派の偉い人が、師任堂の夫と親戚なんです。そのコネで40代になって初めて官職に就けるんです。



― それまでは就職浪人みたいなかんじだったんですね。

あと、長男も科挙を受けているんですよ。でも受かったのは41歳ぐらいなんですよね。


― ドラマだと長男は鍛冶職人みたいになっていきますよね。
そう考えると「師任堂~」って、フィクションの部分が大きいですが、絶妙に史実に基づいたポイントをおさえていますね。

そうですね。その辺りは本当にすごいな、と思いました。
脚本を書かれる際に、ものすごく勉強したんだと思います。


― 脚本と構成力がすごいですよね。
ひとつのドラマに対して、それだけ下調べをして脚本に反映させられだけの時間をかけられるビッグプロジェクトだったってことなんでしょうね。

オフィシャルライターである青島さんの視点から見た「師任堂~」の魅力ポイントはどういうところですか?

師任堂の生き方ですね。

一番初めに私が韓国人俳優でファンになったのはソン・スンホンさんで。それからずっと作品を見てきたんですけど、今が一番素敵だと思うんです。
時代劇の衣装も似合いますし。「ソン・スンホンさんかっこいいな」と思うし、感動して泣いたりもしました。

でも、実際に文章を書くときには、"女性の生き方"がポイントとして見えてくるんです。


― そこが青島さんが「師任堂~」で一番魅かれるポイントなんでしょうね。

あと...ラブの部分を書くときに若干照れちゃうんです。(笑)
「師任堂~」に限らずなんですけど、編集の方から「ここの胸キュンをピックアップして書いて欲しい」と言われても、照れちゃって書けないんです。(笑)


― 私の勝手なイメージなんですが、韓流系のライターさんって2タイプに分けられるような気がします。はじけた文章で胸キュンポイントを書くタイプと、作品の全体を見越して落ち着いた文章を書くタイプが。
青島さんはどちらかと言うと、後者なのかもしれませんね。

そうですね、私はつい背景の方に走ってしまうタイプで...。楽しく胸キュンについて書かれている文章も参考に読みますが、「すごいな、こんな風に書けないな」といつも思っています。
本当は照れてちゃいけないんですけどね。


― 見る分には大丈夫ですよね?

はい。見るのは大好きです。この間も「鬼<トッケビ>」にすごくハマっていました。
ここまでハマったのは「ミセン-未生-」以来かも。
「ミセン-未生-」は見ていた当時、まだ会社に勤めていたので、オフィスで働くことに対して自信が得られたドラマでしたね。


「ミセン-未生-」 ©CJ E&M Corporation,all rights reserved.

― 韓国ドラマには多かれ少なかれ必ず恋愛の要素が入ってきますよね。
青島さんが照れながら、でも、胸キュンや恋愛について書くときに意識しているポイントやコツはありますか?

初めから"ラブコメ"とわかっていたら照れずに書けるんです。
時代劇だと、つい歴史の方にシフトしてしまうからなのか、どうしても照れてしまって。

先程の「ツラいことはありますか?」という質問にも当てはまるのですが、頭で書きたいと思っていることと、手が書いてしまうことが一致しないんですよね。


― 特に「師任堂~」はいろんなジャンルが入っている作品ですしね。
では、時代劇を書かれるときに意識されるポイントはありますか?

歴史とどう違う描き方をしているのか、ということに興味があります。
例えば「チャン・オクチョン」は、今までの彼女の描き方とは違っていたので、そういう部分でいかにチャン・オクチョンを魅力ある人物として作り上げるか、ということを意識しました。
「チャン・オクチョン」もすごくハマったんです。私は時代劇が好きなので、個人的な興味もあって調べていくとどんどんハマっていくんですよね。


「チャン・オクチョン」 ©SBS & SBS Contents Hub. All rights reserved.

― 時代劇の場合、ご覧になっている方も歴史好きな人が多いですよね。
時代劇を書かれるときには、歴史に対する知識の準備に時間をかけられるんですか?

最初の頃は結構時間をかけていましたが、いまはそこまで時間はかかりません。

自分がいつも参考にする本は、ある程度もう決まっていて。
「この辺りの時代なら、この本だな」ということがわかっているので、そういう意味では今はかなり楽ですね。
始めの頃は歴史に詳しかったわけではないので、一から調べなければならなくて大変だったんですけど。

もう書いたことのない時代っていうのがあまり無いんです。

― 調べられるのは韓国の本なんですか?

基本的には王朝実録の翻訳です。キネマ旬報社さんから一冊にまとめたもの(※3)が出ているんです。

※3「一冊にまとめたもの」 
「朝鮮王朝実録 【改訂版】」キネマ旬報社 
http://www.kinejun.com/book/detail/tabid/89/pdid/978-4-87376-391-0/Default.aspx

― その本を選ばれているのは、それが情報として一番正確だと言われているからですか?

そうですね。
でもその一冊だけではなく、他にもいろんな本を参考にします。平凡社さんの「韓国歴史地図」も結構参考にしていますね。


― 日本だとドラマ解説をベースにした本が多いのかな、と思っていたんですが、史実に基づいた本も結構出版されているんですね。

今、若い世代の子たちもKPOPを入り口に韓国ドラマを見るようになりはじめていて。韓国語留学をする子も多いです。きっとライターという職を目指す子もいるのではないかと思うのですが、もしもライターを目指すならば、こういうことをやっておくべき!みたいなことってありますか?

なんだろう...人が書いたものをよく読むことですかね。
販売元によって求めている文体が違うので、小説でもなんでもたくさん読んでおくことが、自分の引き出しになると思います。
とか言いつつ、ラブコメを書いて照れてしまうとき「プロじゃないな」と思うんですけどね。(笑)


― 青島さんの文章がお好きな方もいます!

そうだと良いんですけどね。本当に「師任堂~」は苦労したんですよ...。

― そういう目線で読んでみると、「ここ照れてるのかな?」とかわかっておもしろいかもしれませんね。(笑)
では、青島さんの今後の目標はありますか?

今後も時代劇が好きなので、時代劇を中心にして、いろいろな作品を書きたいなと思っています。


― 最後に...<マイ・ベスト・韓国ドラマ>を教えてください。

一番ハマったのは「冬ソナ」なんですが、「冬ソナ」はもう王道として別格なので...。

ハマる作品は自分がその時に書いている作品なので、今は「師任堂~」です。
「チャン・オクチョン」をやっていたときは「チャン・オクチョン」にすごくハマっていましたし。

歴史的に「チャン・オクチョン」は「師任堂~」の後を描いているドラマなんですよね。士林派(サリムパ)という新しい新興の政治集団が出来て、でも、つぶされてしまって。その後、紆余曲折いろんな派閥が出来るのですが、粛宗(スクチョン)が自分の政治をやるために、朝廷を全部入れ替えるっていうやり方をするんです。

そこに至るのに「師任堂~」のときの政治の派閥が繋がっていくんです。そうなると「チャン・オクチョン」もう一度ちゃんと見ようかな、という気持ちにになって、どんどん見るものが増えていくんです。

ドラマのライティングずっとやっていると、次々に見たいものが増えてくるんですよね...本当にその呪縛からは逃れられないです。(笑)


<おわり>


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「師任堂のすべて 朝鮮時代に輝いた女性芸術家」
好評発売中!
★青島さんが翻訳を担当されました★


「師任堂(サイムダン)、色の日記」
●予告編

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ブルーレイ)21,000円+税  DVD)18,000円+税
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発売元:フジテレビ/フィールズ/エスピーオー 
販売元:エスピーオー

©Group Eight


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