■監督が思うアジアの映画人とは?

―監督が思うアジアの映画人とはどういう人物なんでしょうか。

日本の映画監督たちはみんな、日本国内に向けて映画を作るということに疲弊してるんですよね。今後、外国で映画を撮るということは頭のどこかであるかもしれないけど、突然やれるものではない。

例えば僕自身は林海象監督に最初についたことがものすごくラッキーだった。彼自身が永瀬正敏さん主演で90年代に「アジアンビート」というシリーズをやっていて。それでアジア各国を巡って。永瀬さんがアジアのいろんな国のいろんな監督たちに演出され、トキオという主人公がそれぞれの色に染まっていく。林海象監督は自分が撮るのではなくプロデューサーとして企画した。僕はそれを横で見ていて、当時アジアに出ていくっていう発想が素晴らしく、今思えばすごく早かったと思う。

僕はその時からエドワード・ヤン監督、ホウ・シャオシェン監督の事務所にお世話になったり、泊めていただいたりした。まだ助監督だったんだけど、アジアの俊英と呼ばれた監督が出入りする中で、制作過程を見てきた。それは釜山国際映画祭の時もそうだった。

結局自分のモチベーションが一番沸くのは、やっぱり映画人と触れ合っている時なんですよね。人知を超えたことを目指すのが映画だと思っている人達と。

日本人は映画を作るという行為のステータスがものすごく低い。簡単に言うと映画監督の地位がものすごく低い。やっぱりアジア・ヨーロッパ含め、映画人のステータスは高いんですよ。みんなが憧れるんです。日本はそうじゃないということが、そのまま映画界の状況を鏡のように映している。

アジアの監督たちっていうのは、アジアの問題や自分の国の問題を、映画を通して映し出すことで、「わが国はこういう状況にあるんだ」ということを、背景に見せてくる。映画を見ればその国のことがわかるんですよね。

日本はどちらかというと、日本のテーマという風にはならず、アメリカやフランスみたいな、誰にでもわかるような普遍的なテーマ。それはなぜかと言うと、それぞれの国がそれぞれの観客で回っている国なんですよ。ただ、そういうところでは、逃げ道がないと思ったんです。影響された映画を、日本で真似をしたところで観客はいない。

映画という基本を叩き込まれていない観客たちが、間違ったものを映画だと思っている状況があるでしょう。でも映画の本質を知っていれば、間違ったものでも面白く見れるはずなんです。「こういうのもあるよね、なるほど」と。

例えば、少女漫画を書き写したような映画を作ってるように見えても、映画を知っていれば、それを撮った監督がせめて抵抗している何かが見えるはずです。それも知らずにただ映っているものを見に来る観客を育ててしまったということは、日本ではやっぱり逃げ道がないんだよね。

日本人の普遍やアジアの普遍を、アジアの一監督として描けるようになると、映画界がどんなに歪んでいったとしても、少しでも抵抗して道を開けるようなところに一石を投じられるんじゃないだろうか?

言葉が違うだけで、顔の色、顔、風景や背景も似ているし、アジアの映画人達とお互いに影響を受けあって、喜びとか悲しみみたいなものを共有できたら、もう少し映画の幅は広がると思う。

-映画そのものも合作も増えていくと思います。韓国と中国はガンガン合作をしているので、逆に日本が置いてきぼりになっているように感じることが多いです。もちろん政治的な繋がりが違うという部分も大きいのですが、映画は乗り越えられると信じている。
そして、観る側もアジアの観客として、映画を見る目を養わないといかないといけないと思います。

韓国の映画界もずっと良かったんだけど、やっぱりちょっと落ちていく状況があって、そこから脱却しようとしている。例えばホ・ジノ監督とか。

ホ・ジノとは10年位の付き合いで。「真夜中の五分前」で参加した釜山のパーティーの席で「中国で同じように苦労したよね」という話をした。
彼は2012年に撮影された「危険な関係」ですごく苦労した。美術があまりにもひどいので、テクスチャーから何まで全てCGで変えたと語っていた。中国人スタッフの計画性のなさを嘆いていた。そうなるだろうな...と共感しました。

-韓国人のホ・ジノ監督もびっくりな現場だったということですね?

そうです。中国っていうのはいいところも悪いところもある。
少なくとも僕やホ・ジノみたいな、世界に共通するラブストーリーのヒット作を持っている監督に関しては、中国側は一緒にやれるという発想がある。ヒットするしないに関わらず、中国は資本主義で前向きに映画に投資しようとしている。

僕もホ・ジノも中国でそんなにヒットしたわけじゃないんだけど、ただ相当苦労しながら、彼は2本、僕は1本中国で映画を作って、ホ・ジノが2本作っているなら僕ももう1本作ってみようかな という冗談を言い合ったり。彼とは、もっと深く分かりあうことが出来ましたね。


-10年以上、韓国の映画人と交流する中で韓国語は上達されましたか?

全く喋れない。笑。
韓国語は全く話さなくて、基本は通訳の延智美(ヨン・ジミ)さんを介してる。
韓国の映画祭なんかはプライベートまで連れ出しちゃうから、彼女はクタクタになるんです。

-監督の膨大な量の話をヨン・ジミさんが上手く伝えているんですね

「何で私がこんなことまで」と笑いながらも訳してくれてるんです。

-じゃあ彼女は監督の全ての交友関係を知っているわけですね。

彼女はアシスタントでもないのに、人脈を全て把握している。
でも、すごく楽しいんです。彼女がよく知ってくれているし、ポン・ジュノさんともお付き合いがあるし、僕の映画を韓国でやった時も彼女が常に通訳で来てくれて。

そういう人達との出会いというのが、アジアのその国にその国の言葉を喋れる人が一人や二人いる。自分で喋ると交流がもっと広がる気が一見するんだけど、実はそうじゃないと僕は思っていて、「この人放っておくと道に迷うな」と思わせるぐらい全く喋れない方が、周りが心配して関わってくれる。そうなってくるとその人たちの生活の延長上にいる人まで知ることになる。
彼女たちのフィルターを通していろんなことが見ることが出来、僕は相手にとってお客さんじゃなくなっていく。放っておかれてもその場でニコニコしているだけで、楽しい。

言葉を覚えようとしなかったのは、優秀な通訳というか友達に出会えたからですね。自分の言葉でコミュニケーションを取ろうと思わないわけじゃないのですが。

-それは新しい見方だと思いますね。どうしても自分の言葉で喋りたくなるのが人の常だと思いますし。
素晴らしいご友人がいたことが大きいですね。

深く話せるんですよ。キム・ギドク、ポン・ジュノ、キム・ジウンやホ・ジノも、みんなすごい監督達で彼らと深く話せるのは、やっぱりその間に通訳してくれる人が入ってくれるということ。

これがもし、1人で話していたら、表面上の映画の感想を言って終わりになってしまう。英語でもお互い語彙力がないから結局同じこと。言いたいことが言えないんです。そうすると優しい言葉になってしまうんですよね。


―中途半端なコミュニケーションよりは、自分の言葉でしっかりと表現をするということですか?

そう。キム・ギドクの家にただ泊まるだけの場合は言葉はいらなくて、「美味しいか?」くらいはわかるし、その程度なら意思疎通はできる。

僕らクリエイターは常に現状に対して怒りを抱えているんですよ。現状に満足していないという状況のもとで、映画人として成り立っているんです。その人たちが映画祭で自分の映画を見せて、何を訴えようとしているのか?
もちろん怒りだけじゃなくて愛についてもあるんですけど、ただ、そこにあるのは、もっと突っ込んだものですよね。


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Profile 行定勲
1968年8月3日熊本県生まれ。
1997年、映画『OPEN HOUSE』で監督デビュー。次作の『ひまわり』が、第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。
2001年、映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞を受賞後、『世界の中心で、愛をさけぶ』『春の雪』などの監督作品で次々にヒット作を手掛ける。
9月5日から27日までパルコ劇場にて演出を手掛ける舞台『タンゴ・冬の終わりに』が上演。
詳しくはこちら↓
http://www.parco-play.com/web/play/tango2015/
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