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【きゅんとあじあ】東京国際映画祭 『破風』(香港) Q&A

『激戦 ハート・オブ・ファイト』のダンテ・ラム監督最新作。
ダンテ・ラム監督作品では、古くは『ビースト・コップス 野獣警察』も好きだったし、『スイート・ムーンライト』『重裝警察』『ティラミス』なんて超懐かしい作品とか、新しいところでは『クリミナル・アフェア 魔警』など、たくさん日本公開に携わらせてもらいましたが、なんかやっぱり恋愛映画ってイメージじゃないですよね...。ダンテ・ラムといえば、やっぱりアクション! 『スナイパー』みたいな度肝を抜くガンアクションも良かったし、『激戦』では総合格闘技MMAを題材にして、これまた興奮させてくれました。ただいつも、「うーん惜しい、もう一歩...」って印象だったのが、アクション以外のドラマ部分。アクションシーンのクオリティが高いだけに、欲を言えば...という感じ。あくまでも個人の感想ですが。そのバランスが「お、これは今までで一番成功したのでは?」と思わせたのが『激戦』でしたが、この『破風』も、ダレることなく見せきってくれました! 様々な作品をコンスタントに撮り続けながら、力を付けてきた監督と言えるのではないでしょうか。



さて、肝心のアクションの題材はというと、今回は自転車レース。
監督はずっと、ロードレースを題材にした映画を撮りたかったんだそうです。
なるほど、すごかった。すごい迫力だった。肉体のぶつかり合いではなくカメラワークで見せる、こんなアクション映画があるなんて! 台湾の風光明媚な名所をはじめ、香港、中国、内モンゴルを舞台に、緊迫感と臨場感のあるレースシーンが展開されるのですが、美しい風景とのコントラスト(いや融合か?)も素晴らしく、ググッと肩に力が入ったまま魅入ってしまう感じです。息をするのも忘れます。命懸けのスポーツですね。自転車ロードレースに関しても、もっと知りたくなりました。

出演は、台湾のエディ・ポン(彭于晏)、韓国のSuper Juniorのチェ・シウォン、中国のショーン・ドウ(竇驍)。同じチームに所属するこの3人が、ライバルチームとの激しいレースを繰り広げながら、恋と挫折を経験し、本当に大切なものに気付いてゆく、というストーリー。



ショーン・ドウは、チャン・イーモウ監督『サンザシの樹の下で』で見いだされ、最近では「宮廷女官 若曦(ジャクギ)」の映画版『新歩歩驚心』に出演。ドラマでケニー・リンが演じた第14皇子に扮し、第4皇子役のトニー・ヤン(楊祐寧)と恋のライバルを演じています。

ヒロインのワン・ルオダン(王珞丹)は、ドラマ版「サンザシの樹の下で」のヒロインで、エディ・ポンとは『?飛鴻之英雄有夢』に続く共演。そして、彼女をスターダムに押し上げたのがドラマ「賢后 衛子夫」。その後も映画主演作が立て続けに公開される注目の女優です。

その他、アンドリュー・リンや、欧陽菲菲の姪っ子オーヤン・ナナ(欧陽娜娜)など共演者も見逃せません。ちなみに本作は香港を代表して第88回アカデミー賞の外国語映画賞に出品されています。



さてさて、監督が作品と違ってお坊さんのように穏やかな人でびっくりしたQ&Aです。
そして、強い意志と判断力がある方なのではないかと思いました。



■ロードレースはもともと好きだったんですか?
自転車は昔から大好きでした。2001年からずっとこのテーマの映画を撮ろうと思っていました。でも香港映画にはスポーツをテーマにした映画が少なくて、なかなか機会がありませんでした。2年前の『激戦』と本作は密接な関係があると思います。『激戦』は香港でも興行成績が非常に良くて、そのお陰でこの作品を撮ることができました。永年の夢を実現できて嬉しいです。

■地面すれすれのショットなど、迫力のあるシーンはどのように撮りましたか?
実は準備段階から、大きな困難に直面していました。私は映画監督になって20年程になりますし、アクションに関しては熟知していると自負していますが、
自転車を撮るということに関しては全くの新人で、何もかもが分からなくて苦労しました。一番大変な作品だったと言えます。とにかく何もかも忘れて前進しようという気持ちで取り組みました。

■キャスティングに関しては?
エディ・ポンは『激戦』でも一緒になっています。今回は、僕と同じように夢中で邁進してくれる、迫力のある役者が必要でした。彼には、「もし君が出演してくれないと、この映画を撮る自信がない」と伝えました。演技だけでなく、最も大事なのは意志です。
国際レースを撮るので、役者に関してもインターナショナルなチームを作りたいと思いました。そして、参加してくれる以上はチャレンジして欲しいと伝えました。



■現在撮影中のものも含め、3作で起用しているエディ・ポンの魅力は?
彼はチャレンジ精神を持っている役者だと思います。
今回のように自転車レースとなると、ワンテイク撮るのに4~5㎞走ってもらわないといけないので、プロと同じような訓練が必要でした。撮影前に半年かけて訓練してもらったのですが、彼は一生懸命取り組んでくれました。彼はこの撮影のために、12万㎞も走りました。

■近年の作品に比べ、強烈にドロドロしたコンプレックスを持っている人ではなく、非常に爽やかな人物が多かったのですが、自転車レースが題材だったからでしょうか?
『激戦』は挫折した中年男がどうやって自分を取り戻していくかという映画で、撮り終わった後は私自身も重い気持ちになったので、次の作品は若者をテーマに撮りたいと思いました。
若者にも色々な困難がありますが、友情やチームのためにどう闘い突破していくのか、という姿を撮りたいと思いました。

■エディが恋人に移植をしますが、実際に移植後に強くなった選手がいるのでしょうか?また実際に台湾の選手がワールドクラスのチームに移籍しましたが、モデルにした選手はいますか?
準備段階で香港チームと一緒に色々とリサーチをしました。香港チームは世界的に強くて、何人か尊敬している選手がいるので、登場人物の何人かは香港チームの選手をモデルにしています。
シウォンとコーチの関係は、香港の世界チャンピオンの選手とコーチの話を聞いて、映画に取り入れました。女性選手の話も、レース中に転倒して、骨折し流血しながらも立ち上がり2位になったという実話がありました。スポーツ選手の皆さんの意志、精神に、毎回感動させられます。


■ヘンリー・ライさんの音楽とのコラボがいつも素晴らしいと思うのですが、どのように一緒に作り上げているのでしょうか?
映画を撮る前に、テーマに関係のある音楽を見つけて、撮影中もその曲をかけています。『激戦』の時も「サウンド・オブ・サイレンス」を使用しました。
ヘンリーはチャレンジ精神に満ちているクリエーターなので、毎回喧嘩になって「二度と一緒にやるものか!」と思うのですが、結局はまた一緒にやることになりました。
今回は自転車ということで、自転車はスピード感はあるけれど、ボクシングが持っているような観客を感動させる力は弱い。ただ躍動感はあるので、観客を引っ張っていくためには音楽の力を借りなければと。確かに難しかったのですが、ヘンリーは今回も一生懸命やってくれて、彼にとっても大きな突破ができたのかなと思っています。



現在はタイやマレーシアで新作の撮影をしているとのことで、忙しい中での来日となりました。
「いつか日本を自転車で走り回るのが夢です」という監督から、最後に素敵なメッセージが。

「皆さんの人生の中で、風よけになってくれる人を見つけてください。そんなパートナーや友達を大切にして過ごしてください」

タイトルの"破風"は"風よけ"の意だそうです。
ちなみにこの日は監督が地下鉄の出口を間違えてミッドタウンの方に行ってしまい、Q&Aの直前に六本木ヒルズに到着するという大騒動があったそうです。そんなお茶目な面もあるんですね。六本木ならご案内したのに(笑)



(文:村野奈穂美)

破風 原題:破風(2015/香港=中国)
監督・脚本 : ダンテ・ラム林超賢
出演:エディ・ポン(彭于晏)、チェ・シウォン(Super Junior)、ショーン・ドウ(竇驍)、ワン・ルオダン(王珞丹)、アンドリュー・リン(連凱)、オーヤン・ナナ(欧陽娜娜)、カルロス・チャン(陳家樂)

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